個人開発の先にSaaSの未来が見えた話
ずっと長いこと、タスク管理にTodoistを使っています。メールを見返してみたところ、2013年10月から使っているようです。つまり、かれこれ12年以上使っています。それまでタスク管理というのに失敗し続けてきて、はじめてうまく回るようになったのがTodoistでした。
そんなTodoistでは、旧ビジネスプランのもっとも安価なものを使い続けており、年額3,500円でした。振り返ってみれば、すごく安いなと思うのですが、そんなTodoistではこのプランがなくなり、新しいビジネスプランが年額11,520円になります。個人用にはプロプランというのもあるのですが、こちらは月額672円(年額8,064円)になります。どちらを選ぼうが、2〜4倍近いコストアップになります。
物価高になってきて、その中での値上げはやむを得ない場合もあるでしょう。しかし、この手のSaaSの値上げって、明らかにユーザーが期待していない機能追加に伴うものな気がしています。つまり、AIです。Todoistでも Todoist Assist なるAIアシスタントが出ているようです。はっきりいって、不要です。この結果として値上げになったとしたら、非常に残念なことです。
よく知られているところではAdobeもそうです。Adobeのサブスクリプションは年々高額になっていますが、あれもAI機能の開発負担によるものが大きいように感じます。ユーザーの8割は、2割の機能も使わないと言いますが、PhotoshopとかIllustratorはまさにそうなんじゃないかと思ってしまいます。大半のユーザーにとって不要な機能が搭載され、その開発費用を支払うのはしんどいものがあります。
自分で小さいツールを作る
カレンダー自体はGoogleカレンダーに寄せている(Todoistでも連携機能を使っている)ので、これを機にタスク管理をGoogleカレンダーとGoogle Tasksに寄せることにしました。
しかし、一点問題があります。それは、Todoistの超絶便利な機能である「自然言語によるタスク追加」が必要ということです。例えば「再来週月曜日 ミーティング #プロジェクトA [3時間]」みたいな自然言語に合わせたタスクの入力ができるのが便利なのです。似たような機能はmacOSのカレンダーのクイックイベントがあります。しかし、同じ機能はiOSにはありません。
同じ機能がないと、タスクの入力やカレンダーへの予定登録が面倒になり、長続きしないことは明らかです。TodoistのOSS代替みたいのも探しましたが、やはり同様の機能を提供するものはありませんでした。
そこで、自作することにしました。
goofmint/Text2Cal: Add schedule to your Google Calendar from natural language.
Text2Calは、ごく小さなツールです。GoogleスプレッドシートのGoogle Apps Scriptで実行します。受け取ったテキストをChatGPTに投げて、予定入力用のJSONに変換します。
21日18:00 CodeRabbit User Group Tokyo #0
みたいな文字列を投げると、以下のようなJSONに展開します。
{
"title": "CodeRabbit User Group Tokyo",
"start": "2026-01-21T18:00:00+09:00",
"end": "2026-01-21T19:00:00+09:00",
"location": null,
"label": "0",
"timezone": "Asia/Tokyo",
"recurrence": null
}
これをGoogleカレンダーに登録する仕組みです。結果として、以下のようなJSONがGoogleカレンダーから返ってきます。
{
"id": "l0g...udo",
"status": "confirmed",
"htmlLink": "https://www.google.com/calendar/event?eid=bDB...",
"colorId": "8"
}
入力テキストの頭に ! を入れると、Google Tasksにデータを登録します。 !今日 請求書 みたいなテキストを入力する形です。
あとは、macOS/iOSのショートカットを作って、入力文字列をText2CalのWebアプリケーションに送信するだけです。Googleスプレッドシートを使っているのは、入力した内容や結果をログとして残せること、GoogleカレンダーやGoogle Tasks APIを簡単に使えるためです。
たったこれだけで、個人的に本質的に必要だった機能ができてしまい、Todoistから移行する準備が整ってしまいました。なお、一点課題があるのはGoogle Tasks APIは繰り返し予定の作成に対応していないので、 !毎年12月24日 クリスマスイブ みたいに入れても繰り返し予定にならないことです。
SaaS is Deadの示すもの
数年前にSaaS is Deadという言葉が流行りましたが、AI(LLM)によって現実味が増しています。ちょっとしたものであれば、自作してしまう方が安価で、速く、自分の要件にフィットするものが作れるようになっています。
この時、最も厳しいのが独自のデータベースがないものです。予定調整サービスがその最たるものです。データはGoogleカレンダーなどのカレンダーサービスに飛んでしまい、独自のデータがないのは致命的です。カスタマイズで様々な業務要件に対応したとしても、一人の顧客が使いたい要件は1つ、ないし2つしかなく、他の要件については過剰開発になってしまいます。
独自のデータベースがある場合、それをベンダーロックインとして囲い込む戦略が取れます。ユーザーとしては喜ばしくないのですが、ベンダーロックインによって、使い続けてもらうことは可能でしょう。しかし、ユーザーからのオープンデータに関する要望があって、エクスポート機能をつけると、オープンソースの代替サービスにインポートされる可能性があります。Todoistの場合、タスクは終了させていくのが基本なので、1年前のデータにそれほどの価値がないのが辛いところです。
オープンなプロトコル・基盤を代替するものは、スイッチングコストが低いのが利点でもあり、欠点でもあります。例えばパブリッククラウドのインスタンスであり、メール配信サービスなどです。SMTPでメール送信しているならば、その接続先を変更するだけで乗り換えができてしまいます。AWSで単にEC2インスタンスを立てているだけであれば、他のパブリッククラウドへも容易に乗り換えられるでしょう。
オープンソースの代替サービスが続々登場するのも課題です。OpenAlternativeでは、さまざまなサービスのOSS代替を調べられます。もちろん、全機能が揃っていない場合が多いのですが、8割の要望が満たせるなら十分というケースは多いのではないでしょうか。
生き残るSaaS
では、生き残るSaaSは何があるでしょうか。一つは技術的複雑性を解決してくれるものです。代表的なものとしては、TwilioやStripeがあります。決済周りの仕組みは複雑で面倒なものですが、それをシンプルにしてくれます。もちろん、代替サービスはありますが、決済やSMS送信を行うSaaS市場はなくならないでしょう。
次に法的な課題を解決してくれるものです。たとえばfreeeやSmartHRです。決算書を作成したり、請求書や見積書などを作成するというビジネス上必要なフローを代替してくれます。会計ソフトや労務ソフトは年々制度が変わるのに合わせてアップデートが必要です。ローカルソフトウェアにしたところでバージョンアップ費用は必要ですし、macOSなど複数のプラットフォーム対応を考えると、こうした市場はなくらないと想定されます。
3つ目に、AI(LLM)に選ばれるSaaSです。最たるものとしてはSupabaseが挙げられます。何かデータベースが必要なWebアプリやスマートフォンアプリを開発する際に、Claude Codeなどを使うとSupabaseを要件に組み込んでくることが多いと感じられます。もちろん要件に合わない場合は外せば良いのですが、デフォルトで入ってくるとそのまま受け入れるケースも多いのではないでしょうか。LLMに聞いた時に、候補に上がってこないサービスは衰退していくと予想されます。
4つ目は、継続性によって価値が生まれるものです。単純にデータを蓄積すれば良いというわけではなく、データのベンダーロックインでもありません。データが蓄積することで、新しいビジネス価値を提示できるものは、使い続ける価値があります。SalesforceやDatadogはその系統のサービスだと思っています。Datadogを入れて即価値を見出すのは難しいですが、データが蓄積されていくことで可視化される領域が広がっていき、サービス価値が感じられるのではないでしょうか。Salesforceも今現在の対応状況だけでなく、過去の履歴やクライアントの状況がグローバルに共有されるからこそ、価値があるでしょう。
5つ目は、圧倒的な安価です。他社では真似できないレベルの安価であれば、選ばれる可能性があります。その最たる例がオープンソースです。オープンソース = 無料という認識はよくないですが、少なくともオープンソース・ソフトウェアであれば自社の責任において無償で利用できます。また、Cloudflareのように多くのサービスを無料で使えてしまうのも、他社との差別化になるでしょう。ただし、無料からの有料化は別な茨の道とも言えるので注意が必要です。
最後はデファクトスタンダードです。最たるものがMicrosoft OfficeやAdobe、Autodeskです。デザイナーの中でのスタンダード、CADの世界でスタンダードになることで、どれだけ価格が上がっても使い続けざるをえない状態になっています。Affinityが無償化を実施しましたが、あれで環境を移せるのは個人ユーザーくらいでしょう。ビジネスで使っている場合、スイッチできない状態になっているのではないでしょうか。
まとめ
もし自社サービスがSaaSの場合、この辺りの生き残り戦略を見極めておかないと、あっという間に乗り換えられてしまう可能性があります。スイッチ先はライバルの場合もあれば、オープンソースや自社開発の可能性もあります。
AI、というよりLLMがSaaSの世界を一変しようとしています。2026年もまた、荒れそうで楽しみ(?)です。