AIが自然で読みやすい文章を書くようになり、アウトプットに対する意欲が徐々に失われつつあります。そんな中で、生成AIベースの、なんとなくAIっぽいと感じられるコンテンツはむしろ増加しており、それがさらにアウトプット意欲を妨げているように感じます。

わざわざ自分がアウトプットしなくても、AIに聞けば解決してくれるという時代において、どんなアウトプットが必要になるでしょうか。

経験

AIができないこと、その一つが経験です。フィジカルでも、オンラインであっても、AIは経験を積み重ねることができません。コンテキストがリセットされれば、それまでにやりとりした履歴は忘れ去り、まったくのゼロベースで会話が始まります。

技術記事などを書く際に、「困り事→解決」だけを見れば、無数のコンテンツがすでに存在しますし、AIが最も得意とするところでしょう。しかし、あなたの体験は真似ることができません。なぜその課題が生じたのか、なぜその解決策を選択したのか、実施にあたって生じた問題はどうだったのかなど、解決に至るまでの経験はあなただけのユニークなコンテンツになります。

感情

AIが書いている文章に抜けているのが、感情です。AIに小説を書かせれば、それっぽい感情を含んだ内容を書くことはできるでしょう。しかし、大抵の場合薄っぺらく、どことなくAIが書いたんだろうと匂わせる文章になっているはずです。

技術的な記事においても、感情は十分に入り込む余地があります。うまくいった時の嬉しさ、最初のトラブルで感じた焦り、周囲からの感謝の言葉で得られた感情など、心の琴線に触れる機会が多数あるはずです。そうした心情の変化はAIでは決して再現できない、あなただけの唯一無二のコンテンツになります。

重要なのは言語化と記録、伝え方

こうした人間しか書けないコンテンツを作る際に肝になるのが、言語化です。今(または数日前)自分が感じている感情や経験を、言語化しないとアウトプットはできません。嬉しかった、だけではあまりにも情報量が少なく、AIでも十分に出力できる内容です。より深く、自分の状況を言語化できないといけません。

言語化は仕事の上でも役立つはずです。AIへのコンテキストを与える際には、人間相手であれば当たり前だからと無視されている内容を盛り込まないといけません。言葉一つ取っても、その定義や期待値を明確にしないと間違って認識されてしまうでしょう。これは人相手でも同じですが。あれやこれ、いい感じにやっておいてといった適当な指示でうまくいっていた時代は終わり、より言語化能力の高さが(エンジニアであっても)求められるようになっています。

記録

そしてもう一つ大事なのが記録です。記憶はあっという間に薄れてしまいます。今感じた感情を、今すぐメモしておきましょう。今苦しいと思った感情も、明日になれば霧散してしまいます。いわゆる喉元過ぎればという状態です。こうなると、自分の経験を正しくアウトプットできなくなります。

そこで、記憶がフレッシュな内に、メモしておくのが大事です。脳に入れておくだけではあっという間も薄れてしまいますが、どこかに小さくメモしておけば、後になって見返した際に記憶が再現されるでしょう。全てを記して置く必要はありません、記憶を呼び覚ますきっかけになる一言さえ残しておけば問題ありません。

伝え方

昔、PMを始めた頃には、「厳密なドキュメントさえ書けば、システムは正しく実装される」と思っていました。しかし、実際に出来上がるのはとても読みづらい、堅苦しい文章です。そんな文章は誰も読みたがらないでしょうし、目が滑ってしまいます。その結果、要件もれが発生します。ドキュメントにある、と突っ込んだところで意味がありません。読まれない文章には価値はないのです。

プレゼンテーションなども同じです。いくら良いことが書いてあっても、伝え方が悪ければなんの意味もありません。逆に、どれだけ拙いスライドであっても、相手に伝わっているならまったく問題ありません。

つまり問題は伝え方なのです。コミュニケーション文脈で言えば、ストーリーテリングと言えるかもしれません。事実を淡々と伝えるのでは、人の心は動きません。感情を共有し、あなたの経験から語ることで、相手に響く文章になり得るのです。

経験の発信はキャリアにつながる

今後、AIを使った開発がますます増えていくでしょう。そうなった時に、個人のキャリアはどうなっていくでしょうか。大規模なシステム開発に従事したとしても、やっていたことがAI任せだとすれば、あなた自身の価値はどこにあるのでしょうか。

キャリアとしての地固めをする上でも、アウトプットは役立つはずです。そして、そこで大事なのは自分が何を考え、何に苦労し、どうやって克服したかという経験なのです。その経験をアウトプットするのは、他の人との差別化につながるでしょう。

Tips:AIは使わない、たとえCopilotでも

個人的にはブログの文章を書く際に、GitHub Copilotのような優秀なAIサジェストは使わないようにしています。自分が書こうと思ったことを先出しされ、承認しているうちに徐々に思考誘導されている感じがするからです。

自分の内にあるアウトプットしたい内容は、自分だけのものです。AIが介在し、彼ら(?)の望む何かに変えられてしまうと、自分が本来言いたかったことではなくなってしまう可能性があります。何より、自分なら絶対に使わないであろう文章の書き方(太字、横棒、文末が:で終わるなど)があると、それはもはや自分の文章ではなくなってしまうのです。

AIに頼らない文章は、読みづらい部分があったり、誤字や脱字があるかもしれません。それはそれ、人間ならではの味というものじゃないかなと割り切っています。

まとめ

AI時代になって、むしろアウトプットの重要性は高まっているように感じます。それはアウトプットしている人と、していない人の差が広がっているという意味です。AIでなんとでもなる時代にあるからこそ、アウトプットしている人の価値が出てくるのではないでしょうか。

ただし、劣化版AIみたいなアウトプットは意味がありません。人間だからこそできる、経験と感情を含んだアウトプットこそ、価値になるでしょう。